(けいざい+)NMNサプリ狂想曲:5 商品選び、消費者本位で
2023/12/09 朝日新聞 朝刊 6ページ 1383文字
豊後水道に面した大分県佐伯市に、国内では数少ない「純国産」のNMNサプリの生産拠点がある。
大学でたんぱく質の生成などを研究した深水祐一郎(36)が2012年、三菱商事の子会社興人に就職。
佐伯市の拠点で、NMN関連の論文を読みふけった。「あれ、多いぞ」。自社の酵母エキスを分析し、NMNの含有量が多いことに気づいたのが14年。そこから酵母でNMNをつくる技術の研究開発を始めた。
酵母を発酵させ、酵素反応でNMNへと変換していくプロセスだが、大量生産が難しく、試作のたびに数値が変わるなど安定性に課題があった。温度や時間などの条件を変えた実験を1千回超も繰り返し、生成後も1年先までNMNの量が保たれることを確認。人での臨床試験を行い、安全性と有効性が認められるデータは論文として公開した。
興人の発酵事業を受け継ぐ三菱商事ライフサイエンスが今春発売したNMNサプリは、価格が60袋で3万2,400円。通販サイトの人気商品と比べると高額だが、9年かけて開発した深水は「安心・安全という点でアドバンテージがある」と強調する。
市販のNMNサプリは、大手の高価格帯と、通販サイトで人気の格安品に大別できる。ただ、NMN原料を誰がどこで作るかを説明する業者は、大手も含めてほとんどいない。
通販業者や原料輸入業者への取材では、国内に流通するNMN原料は中国産が大半だ。最後の精製を国内で施すことで「国内製造原料」として売られる例が多い。消費者が商品ラベルから知れるのは、カプセルなどに原料を詰める工場名だけ。原料メーカーや輸入業者の正体は明かされない。
ある輸入業者は「今は中国の技術が日本より高く、原料の品質も中国が上だ」と自信を見せる。ただ、原料メーカーの開示には「原料の奪い合いを招くので不利益が大きい」と消極的。通販業者も「日本製を好む消費者には輸入元を明かさないほうがいい」と本音を語る。
米ワシントン大教授の今井真一郎は、技術革新によって低価格の中国産でも高品質の原料が出回るようになったものの、「消費者が正しい情報を得て商品を選べる状況になっていないのが一番の問題だ」と指摘。一定の品質や安全性を担保するガイドラインづくりと認証制度の導入をめざす。
日本で売られるサプリは現状、法律上は「食品」に過ぎないため、「一律に規制を加えるのは現実的でない」(富山大医学部教授の中川崇)との意見もある。
ならば、サプリの配合成分の量や価格とともに、安全性の確認手段などを示すような仕組みはどうか。楽天やアマゾンで家電などを探す際は、機能や特徴をチェックボックスで選び、希望に沿う商品を見つけやすいよう設計されている。同じようなことがサプリでもできるのではないか。
帝人の子会社NOMON社長の山名慶は、通販サイトで表示すべき確認項目として、(1)有害物質の有無(2)時間が経っても品質が保たれる安定性(3)人での臨床試験などの安全性、の三つを挙げる。すべて満たすのは国内で数社とみられる。
高額でも安全性に力を入れた商品か、手間やコストを抑えて安さを追求した商品か。大事なのは、消費者が実態を理解して選択しやすくすること。そこにNMNビジネスの成否がかかっている。
(藤田知也)=敬称略、おわり